村上一郎さんの未完の自伝『振りさけ見れば』(而立書房・1975年)に次の
記述がある。昆虫採集のときの先輩として。
「わたしの中学の二年上に、蓮実重智さんという人がいた。家は三条町で、もと
わたしのいた家に近く、暗い大きな士族屋敷であった。が、お父さんは宇都宮藩の
士族ではなく、県北の、佐久山よりもっと白河の関に近い黒羽(くろばね)藩
士族で、日露戦争に出て負傷した旧い軍人で、少佐か中佐で辞めたらしかった。
黒羽藩は、小藩ながら、藩主大関氏の代々からも、家老たちからも、たいへん
開明的な人たちを輩出し、近頃の明治百年騒ぎで再評価されだしている」(p.81)
蓮実さんと江藤淳さんとの対談本『オールド・ファッション』(中公文庫)にも
蓮実さんの本貫が栃木県だという記述があったのだが、蓮実さんの父君の重康さんと
ここの重智さんとは、「重」という文字もそうだが、なんらかの血縁関係にある
のではないかという推理はどうだろう、1918年生まれの重智さん(村上は1920年
生まれ)だから、1936年生まれの重彦さんからすれば、叔父だとか。根拠はない。