承前。今日で陸軍刑法第二編「罪」紹介は最終回です。

第十一章 違令の罪
第九十五条 哨兵を欺きて哨所を通過し又は哨兵の制止に背きたる者は左の区別に従て処断す。
一 敵前なるときは一年以上五年以下の禁錮に処す。
二 軍中又は戒厳地境なるときは三年以下の禁錮に処す。
三 其の他の場合なるときは一年以下の禁錮に処す。
前項の外哨兵に対し哨令を犯したる者亦前項に同じ。
第九十六条 在郷軍人故なく召集の期限に後れたるときは左の区別に従て処断す。
一 戦時に際し又は事変の為召集を受けたる場合に於て五日を過ぎたる者は二年以下の
  禁錮に処す。
二 其の他の場合に於て十日を過ぎたる者は一年以下の禁錮に処す。
第九十七条 兵役を免るる目的を以て疾病を作為し、身体を毀傷し其の他詐偽の行為を
       為したる者は三年以下の懲役に処す。(改行)
       在郷軍人の召集を免るる目的を以て前項の行為を為したるとき亦前項に同じ。

95-1、96、97-2は一般人にも適用される。
95の「哨令」とは哨兵の「命令」(条文のない行為)ということか。
97は兵役法とどう関係するのか。

第九十八条 戦時、軍中又は戒厳地境に在りて軍事に関する虚偽の命令、通報又は報告を為し
       たる者は五年以下の懲役に処す。
第九十九条 戦時又は事変に際し軍事に関し造言飛語を為したる者は三年以下の禁錮に処す。

99は一般人にも適用される。意識的(作為的)でなくても結果的に「造言飛語」になったら罰せ
られるんだろうな。寒き唇なることかな。

第百条 礼砲、号砲其の他空砲を発すべき場合に於て弾丸、瓦石其の他の物を装填して発し
     たる者は二年以下の禁錮に処す。
第百一条 哨兵又は衛兵故なく銃砲を発したるときは二年以下の禁錮に処す。

第百二条 戦時、軍中又は戒厳地境に在りて急呼の号砲ありたる場合に故なく来会せざる者は
      二年以下の禁錮に処す。

第百三条 政治に関し、上書、建白其の他請願を為し又は演説若は文書を以て意見を公にしたる
      者は三年以下の禁錮に処す。

これが軍人勅諭でも禁じられている政治行為。しかし知識人系軍人はいろいろ書物を上梓している。
それは政治書ではないということか。

第百四条 服従の義務に違ふべき事を目的として党を結びたるときは首魁は六月以上五年以下の
      禁錮に処し其の他の者は二年以下の禁錮に処す。


あと、附則として

附則 


本法施行の期日は勅令を以て之を定む(明治四十一年勅令第百六十四号を以て同年十月一日より
施行す)(改行)
明治十四年第六十九号布告陸軍刑法は之を廃止す。

とある。法律施行日が勅令によって決められるということ、あるいは明治十四年のときは「布告」
だったことなど、ちょっと、ひっかかる。


今まで引用してきたのは、陸軍刑法第二編であって、第一編についてはほとんど省略している。
これを明日から補足していく。ちょっと面白い(興味をひく)ものを引用してみる。

第二十一条 陸軍に於て死刑を執行するときは陸軍法衙(はふが)*1を管轄する長官の定むる
       場所に於て銃殺す。

第二十二条 多衆共同の暴行を鎮圧する為又は敵前に在る部隊の急迫に臨み軍紀を保持
           する為已むことを得ざるに出でたる行為は之を罰せず。(改行)
          必要の程度を超えたる行為は情状に因り其の刑を減軽又は免除することを得。
第二十三条  前条の規定は刑法又は他の法令の罪と為るべき行為に亦之を適用す。

この「已むことを得ざるに出でたる」とは具体的にどういうことなんだ?。

*1:法衙とは、単なる官衙=役所なのか、陸軍裁判所のようなところか。