(承前)
肝腎なところを引用していなかったのだが。

陸軍刑法(明治四十一年四月十日法律第四十六号)


帝国議会の協賛を経たる陸軍刑法を裁可し茲に之を公布せしむ。

旧陸軍刑法(明治14年)と新陸軍刑法(明治41年)との引継ぎのときに、陸軍刑法施行法という
メタ法が出ている。要するに旧刑法の罰則をうけている人が新刑法の罰則変改によってどう
対応されるかなどという調整のために。


ところで「朕帝国議会の協賛を経たる〜〜法を裁可し茲に之を公布せしむ」
という表現について。
美濃部達吉博士の『憲法講話』(有斐閣・1918年版)の「議会の権限」に次のようにある。
引用は今までの通りの私原則で、傍点については色を変える。

裁可と云ふ行為は単に消極的に法律を妨げないと云ふのではなくして、法律となるべき
効力を附与する行為であります。議会の議決だけでは法律は未だ成立しないので、
之に君主の裁可が加はつて始めて法律たる効力を生ずるのであります。此の点に於て
裁可権は共和国大統領の有(も)つて居る拒否権とは性質を異にして居ります。(p.221)

この引用の前には

日本に於きましても裁可を拒まれた例は憲法実施以来未だ曽て一回も無いやうであります。
是は議会は、国民の意思を代表するものであるから、議会の議決した法律は畢竟国民の希望
する法律である*1苟も憲政を実施した以上は、国民の希望する法律は成るべく民意を容れて
之を嘉納せらるゝという聖意に出でゝ居ることゝ恐察せらるゝのであります。(p.220)

これが正しければ、昭和天皇の「独白録」の「vetoはしなかった」に限定すればそこには
正当性と正義があるということである。


つづき。

第四章 抗命の罪
第五十七条 上官の命令に反抗し又は之に服従せざる者は左の区別に従て処断す。
一 敵前なるときは死刑又は無期若は十年以上の禁錮に処す。
二 軍中又は戒厳地境なるときは一年以上七年以下の禁錮に処す。
三 其の他の場合なるときは二年以下の禁錮に処す。
第五十八条 党与(たうよ)して前条の罪を犯したる者は左の区別に従て処断す。
一 敵前なるときは首魁は死刑に処し其の他の者は死刑又は無期禁錮に処す。
二 軍中又は戒厳地境なるときは首魁は無期又は五年以上の禁錮に処し其の他の者は
  一年以上十年以下の禁錮に処す。
三 其の他の場合なるときは首魁は三年以上十年以下の禁錮に処し其の他の者は
  五年以下の禁錮に処す。
第五十九条 暴行を為すに当り上官の制止に従はざる者は三年以下の禁錮に処す。

*1:ここには読点はない。