承前。陸軍刑法。

第五章 暴行脅迫の罪
第六十条 上官に対し暴行又は脅迫を為したる者は左の区別に従て処断す。
一 敵前なるときは一年以上十年以下の懲役又は禁錮に処す。
二 其の他の場合なるときは五年以下の懲役又は禁錮に処す。
第六十一条 党与して前条の罪を犯したる者は左の区別に従て処断す。
一 敵前なるときは首魁は無期若は十年以上の懲役又は禁錮に処し其の他の
  の者は三年以上の有期の懲役又は禁錮に処す。
二 其の他の場合なるときは首魁は五年以上の有期の懲役又は禁錮に処し
  其の他の者は十年以下の懲役又は禁錮に処す。
第六十二条 上官に対し兵器又は兇器を用ゐて暴行又は脅迫を為したる者は
  左の区別に従て処断す。
一 敵前なるときは死刑、無期若は十年以上の懲役又は禁錮に処す。
二 其の他の場合なるときは無期若は二年以上の懲役又は禁錮に処す。
第六十三条 党与して前条の罪を犯したる者は左の区別に従て処断す。
一 敵前なるときは首魁は死刑に処し其の他の者は死刑又は無期の懲役又は禁錮に処す。
二 其の他の場合なるときは首魁は死刑又は無期の懲役若は禁錮に処し其の他の者は
   死刑、無期若は五年以上の懲役又は禁錮に処す。


第七十二条 第六十条乃至第七十条の未遂罪は之を罰す。


次からはちょっと注釈を必要とする。
第一編の総則の最初の三条を引用してみる。

第一条 本法は陸軍軍人にして罪を犯したる者に之を適用す。
第二条 本法は陸軍軍人に非ずと雖左に記載したる罪を犯したる者に之を適用す。
一 第六十四条乃至第六十七条の罪及此等の罪の未遂罪。
二 第七十四条の罪。
三 第七十九条乃至第八十五条の罪。
四 第八十六条乃至第八十九条の罪。
五 第九十一条乃至第九十三条の罪及第九十一条、第九十二条の未遂罪。
六 第九十五条第一項、第九十六条、第九十七条第二項及第九十九条の罪。
第三条 本法は前二条に記載したる者帝国外に於て罪を犯したるときと雖之を適用す。
(以下関連あるものを略)。


その第六十四条以下が次となる。軍人以外の者一般を視野に入れている。

第六十四条 哨兵に対し暴行又は脅迫を為したる者は左の区別に従て処断す。
一 敵前なるときは七年以下の懲役又は禁錮に処す。
二 其の他の場合なるときは四年以下の懲役又は禁錮に処す。
第六十五条 党与して前条の罪を犯したる者は左の区別に従て処断す。
一 敵前なるときは首魁は三年以上の有期の懲役又は禁錮に処し其の他の
  の者は十年以下の懲役又は禁錮に処す。
二 其の他の場合なるときは首魁は一年以上十年以下の懲役又は禁錮に処し
  其の他の者は五年以下の懲役又は禁錮に処す。
第六十六条 哨兵に対し兵器又は兇器を用ゐて暴行又は脅迫を為したる者は左の区別に従て
      処断す。
一 敵前なるときは無期若は五年以上の懲役又は禁錮に処す。
二 其の他の場合なるときは一年以上の有期の懲役又は禁錮に処す。
第六十七条 党与して前条の罪を犯したる者は左の区別に従て処断す。
一 敵前なるときは首魁は死刑又は無期の懲役若は禁錮に処し其の他の
  の者は無期若は七年以上の懲役又は禁錮に処す。
二 其の他の場合なるときは首魁は死刑、無期若は七年以上の懲役又は禁錮に処し
  其の他の者は無期若は二年以上の懲役又は禁錮に処す。


第七十二条 第六十条乃至第七十条の未遂罪は之を罰す。

第六十八条 上官又は哨兵以外の陸軍軍人其の職務を執行するに当り之に対し暴行又は
       脅迫を為したる者は四年以下の懲役又は禁錮に処す。(改行)
       党与して前項の罪を犯したるときは首魁は六月以上七年以下の懲役又は
       禁錮に処し其の他の者は五年以下懲役又は禁錮に処す。
第六十九条 上官又は哨兵以外の陸軍軍人其の職務を執行するに当り之に対し兵器又は
       兇器を用ゐて暴行又は脅迫を為したる者は一年以上十年以下の懲役又は
       禁錮に処す。(改行)
       党与して前項の罪を犯したるときは首魁は無期若は三年以上の懲役又は禁錮
       処し其の他の者は一年以上の有期の懲役又は禁錮に処す。


第七十二条 第六十条乃至第七十条の未遂罪は之を罰す。


64〜67のものと、68〜69のものは、哨兵(歩哨兵)に対するものと、それ以外のもの(しかし
後者は「上官又は哨兵」という規定になっている)とに対するものであるが、「それ以外の
軍人」とはどういうことかな?。


以下、「多衆聚合」と「党与」とは違うものなのだな。前者は偶然のあつまりということか。
しかしそれに「首魁」がいるのかな。

第七十条 多衆聚合して暴行又は脅迫を為したる者は左の区別に従て処断す。
一 首魁は三年以上の有期の懲役又は禁錮に処す。
二 他人を指揮し又は他人に率先して勢を助けたる者は一年以上十年以下の懲役又は
  禁錮に処す。
三 附和随行したる者は二年以下の懲役又は禁錮に処す。


第七十二条 第六十条乃至第七十条の未遂罪は之を罰す。

第七十一条 職権を濫用して陵虐の行為を為したる者は三年以下の懲役又は禁錮に処す。


ところで、肝腎なものを引用しわすれていた。
総則の。

第八条 陸軍軍人と称するは左に記載したる者を謂ふ。
一 陸軍の現役に在る者但し未だ入営せざる者及帰休兵を除く。
二 召集中の在郷軍人
三 召集に依らず部隊に在りて陸軍軍人の勤務に服する在郷軍人
四 前二号に記載したる者の外陸軍の制服著用中又は現に服役上の義務履行中の
  在郷軍人
五 志願に依り国民軍隊に編入せられ服務中の者。
第九条 左に記載したる者は陸軍軍人に準ず。
一 陸軍所属の学生、生徒。
二 陸軍軍属。
三 陸軍の勤務に服する海軍軍人。
前項第一号に記載したる者の中特に除外すべき者あるときは命令を以て之を定む。
(以下、関連あるものを略)。

「軍属」と「所属」とはどうちがうのか(第九条)。第九条第三号は重要だな。
第八条第四号の前三項以外に制服を著用する例というのはあるんだな。具体的には
どういうことなんだろう。


ところで、「乃至」という表現(〜〜から〜〜まで)を「and」と勘違いしていたので、
昨日までの引用分をちょっと訂正しておく。日本語を知らん私。「的を射る」を「的を得る」
なんてお約束的に書いてきた。