承前。ここも一般人も対象とする諸条。

第八章 軍用物損壊の罪
第七十九条 陸軍の工場、船舶、戦闘の用に供する建造物、汽車、電車若は橋梁又は
      陸軍の軍用に供する物を貯蔵する倉庫を焼燬(せうき)したる者は死刑
      又は無期若は十年以上の懲役に処す。
第八十条 露積したる兵器、弾薬、糧食、被服其の他陸軍の軍用に供する物を焼燬
      したる者は左の区別に従て処断す。
一 戦時、軍中又は戒厳地境なるときは死刑又は無期懲役に処す。
二 其の他の場合なるときは無期又は二年以上の懲役に処す。
第八十一条 火薬、汽罐*1其の他激発すべき物を破裂せしめて前二条に記載したる物を
       損壊したる物は焼燬の例に同じ。
第八十二条 第七十九条に記載したる物又は陸軍戦闘の用に供する鉄道、電線若は
       水陸の通路を損壊し又は使用すること能はざるに至らしめたる者は無期又は
       二年以上の懲役に処す。
第八十三条 兵器、弾薬、糧食、被服、馬匹其の他陸軍の軍用に供する物を毀棄又は
       傷害したる者は十年以下の懲役又は禁錮に処す。
第八十四条 第七十九条乃至第八十二条の未遂罪は之を罰す。
第八十五条 本章の規定は陸軍と共同作戦に従ふ外国陸海軍の軍用物に対する行為に
       亦之を適用す。

 

これも一般人も対象とされている。

第九章 掠奪の罪
第八十六条 戦地又は帝国軍の占領地に於て住民の財物を掠奪したる者は一年以上の有期懲役に
       処す。(改行)
       前項の罪を犯すに当り婦女を強姦したるときは無期又は七年以上の懲役に処す。
第八十七条 戦場に於て戦死者又は戦傷病者の衣服其の他の財物を褫奪(ちだつ)*2したる者は
       一年以上の有期懲役に処す。 
第八十八条 前二条の罪を犯す者人を傷したるときは無期又は七年以上の懲役に処し死に
       致したるときは死刑又は無期懲役に処す。
第八十九条 本章の未遂罪は之を罰す。

これは今の人の関心を強くひく章ではある。とくに第八十六条の「婦女を強姦」というところ。
この八十六条は本当に遵守されたんだろうかという疑問は当然にわく。空文とされたのか。
または住民の財物の掠奪(りゃくだつ)が一年以上の有期の懲役とは、甘いのか辛いのか。
常識的には甘く映る。しかし兵站が途切れて国際法違反ではあっても食料の「現地調達」をせざるを
えないことも遺憾ながらあるわけで。やっぱり戦地は悲惨だね。
この章が一般人も包括とする条文だということは、つまり、戦地泥棒という、火事場泥棒という
職、そういう事例があるということだ。

*1:汽缶=ボイラー。ここでは、あえて「缶」の旧字を残した。

*2:褫奪=はぎとること。