http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/4499/shogi/chronicle.html
をみれば、四間飛車の歴史・経緯がひととおり分かる。大変に簡便なページ。
私は非常に弱いのだが、中年にさしかかっている現在から強くなっても仕方がない。
アマチュアは楽しめばいい。将棋はなんでこんなに面白いのかと思慕しつづければ
いいんじゃないか。ところで私が現在一番興味のあるのは振り飛車なのだが、私は
振り飛車は指さない。単純にいえば、つまり、振り飛車を指しこなすのは非常に
難しいから。独特の押し引きの呼吸だとか、盤面を総体的に全体として広く把握する
だとか。
居飛車の場合、単純化すれば、盤面の右上から左下に対角線を引いて、自分と相手
との間にシンメトリックな形が起こりやすい。それだけで既に盤面(混沌)は限定されて
いるといえる*1。限定されているがゆえに、あくまでも単純化していうと、局地戦の結果が
そのまま大勢に影響を与えやすい。しかし振り飛車の場合は、なかなかそういえない
ところがある。伸(の)しても伸(の)しても不思議に相手の息が続く。非常に息の長い
戦いになることがある。二上達也さんの「棋士」棋士にもあるのだが、
盤面への大山さん(四間飛車の権威)の視線を二上さんが追ったときに、一箇所に五秒と
留まることがなかったという。たえず全体を見回している(p.134)。
また

升田さんには将棋全局を組み立てる大きな構想力があった。大山さんはその升田さんの
構想を修正した。一手、二手の修正ではない。全局の流れのなかで修正するのである。
いずれにせよ、それらは升田さん、大山さんの独創であった。(p.197)

上は居飛車振飛車の区別は書いていないが、とくに振飛車について言えることでは
ないか?。米長さんと羽生さんとの対談書「人生、惚れてこそ」(クレスト・1996年)に
次の米長さんの発言がある。

昔、山田道美(みちよし)という棋士がいました。打倒大山で、何としても大山の四間飛車
を倒そうといろいろ頑張って勉強した。そうしたら、大山、升田の二人は序盤だけの勉強
では倒せないと気づいた。二人の将棋は序盤から終盤まで一本の太い線でつながっているんだ
と。(p.132)

この発言の当否は別として(そしてまだそのころには居飛車穴熊は存在していなかったのだが)、
将棋を全体として把握していた升田・大山の姿勢は、この二つの発言から伝わってくると
いってよい。その把握の手段として、振飛車がそれに適しているのだとしたら、振飛車
「卑怯な戦法」どころか、「邪道」どころか、「こんなもの若いうちに指していると将棋が弱く
なり惰弱な将棋になる」*2、どころか、むしろ将棋の本質に関わっているといえなくないか。
居飛車はまあ基本だと思う。そしてどんどんと位を獲り、駒が前進をするように臆さぬ
伸びる手が指せるようになることが棋力が上がっていると言える。が、振飛車居飛車とは
別の?位相において、非常に奥が深い。そしてその深さは将棋の遊芸性・遊戯性に適っている
かもしれない、ということをここで書きたかった。(ただ私は当分は指すつもりはないんだが)。
竜王戦の第11期(1998年)の、藤井さんが谷川さんから奪取したときの将棋、四タテして
ストレートで勝ったときが、わりあい、象徴的である。私はよく知らないのだが、考えて
みれば、おかしい。1984年の名人戦では谷川さんは兄弟子の森安秀光さん*3の挑戦を退けて
いる。それほど不得手というわけではなかろうが、この竜王戦は第一局は好局にせよ、それに
落とすと第二局は屈辱的な内容、第三・第四局は完敗を喫している。前進流、斬り込み合いの
粋(すい)が空転していて、感覚がおかしくなっていることが棋譜から読み取れる。
この番勝負にかぎっては、OSというのかフォーマットをあらかじめ変えて対処されるべきだったと
思うんだが、僭越な意見ではある。羽生さんは相手についていって総合的にひっくり返す棋風
が主だから、四間飛車はご自身も指されるし相手にしてもあまり苦手でもないらしい。羽生さん
にこそ大山流が継承されているという指摘もある。

*1:翌日に追記。これ、正しくないなあ。振飛車だって、盤面を横に区切ればシンメトリーじゃんかよ。だから、横に線が入るのか、斜めに線が入るのかで、非常に違ってくるということだと思うんだよ。

*2:関根門下の関東の正統的居飛車党においては、いまだに、振飛車については根底においては否定の態度と評価がある。この対談書のp.190において米長さんは四段になったとき、芹沢さんから一人前になりたいんだったら振飛車をやめろといわれたことを喋っておられる。中原さんも米長さんも当時の流行の振飛車を奨励会時代は指していたわけだ。

*3:四間飛車の達人。振飛車党としての大山研究の先駆者。森安兄弟は、千鳥の大悟と一緒なのだが、北木島の出身である。